◆続My Number 1〜手塚リベンジ編〜◆

第一章 ※0023号視点

「0023号」
「はい、観月様」
観月様に呼ばれ、私は観月様の前に跪いた。
ここは、観月様がお造りになった、スパイ寮のラウンジルーム。
聖ルドルフ寮の地下にある。
現在、観月様にお使えするスパイは25名。
私は0023号。
「この報告書の件なのですがね…」
観月様は、前髪に指を絡ませながら先日私が提出した青学レギュラーの報告書をご覧になっている。
「何かご不満ですか?観月様」
「いや、実に興味深いデータですよ。特に手塚君がこれほど下手とは…。んふっ、あなたを青学にやった甲斐がありました」
「ありがとうございます、観月様」
観月様は、満足げに微笑んでいらっしゃる。
このご様子だと、ご褒美を戴けるのかもしれない。
私は期待を胸に、観月様の次のお言葉を待った。
「それでですね、今夜の伽をあなたに申し付けたいのですが…」
「はい!ありがとうございます」
やったー!
今夜、観月様のお相手をさせていただける!
私が、スパイをしている目的はただ一つ。
敬愛する観月様の腕に抱かれるため…。
「では、今夜、身支度を済ませた後、観月様の寝室に伺わせて頂きます」
「うむ」
早く自室に戻って、身体に磨きをかけなくては!
私が立ち上がりかけたその時、
「お待ち下さい!観月様」
隣室に控えていた0025号が、入ってきた。
「ん、0025号か?」
観月様の声音が幾分優しくなる。
0025号−。
才色兼備を兼ね備え、観月様のご寵愛を一身に受けている、観月様お気に入りナンバーワンの女。
「その青学データには問題がございましてよ、観月様」
0025号が色目を使いながら、観月様に申し上げている。
私は、無性に腹が立った。
「何よー、0025号、何が問題だってのよー!」
「何が問題なのですか?0025号」
観月様も私に続いて0025号に訪ねていらっしゃる。
「そのデータは、乾の協力を得て作成されているのですわ、観月様」
「な、何っ?」
やばい、それをばらされては…。
観月様は乾をライバル視していらっしゃる。
その乾の協力を得ていた事がばれたら、お怒りになることは明白なので、私はそのことを伏せておき、報告書に載せなかったのだ。
「それは、本当なのですか?0023号」
「は、いえ…、あの、その…、そうだったかな…、いえ、はい…」
私はしどろもどろしながら、お答えした。
「そのようなデータ、信用に与えしませんわ。乾と通じている0023号のデータなど」
「くっ、0025号、アンタ、何処でそれを…」
私が青学でデータを取っていた時、0025号は九州地区の獅子楽中のデータ収集に行っていたはず…。
「私の目は誤魔化せなくてよ0023号。観月様、0023号の部屋の冷蔵庫に乾汁が入っていたのですわ。それで不振に思い少々調べてみたら、案の定、乾の協力を得ていたことが判明したのですわ」
「あれは、観月様の為にもっと綺麗になりたいって言ったら美容にいいから飲んでみろ、って乾がくれた物で…、あ、いや…、その…」
まずい−。
完全に墓穴を掘ってしまった。
「何!乾汁!0023号、それは本当なのですか?」
観月様は、そのお美しい顔を歪ませ、わなわなと小刻みに全身を震わせていらっしゃる。
相当ご立腹なご様子だ。
「申し訳ありません、観月様。乾の協力がなくてはあのデータは取れず−。どうかお許しを…」
「許しません!!0023号、もうあなたは僕の前に姿を見せなくてよろしい」
そ、そんな、観月様。
私を追放なさるおつもりですか?
「0025号、今夜の伽を申しつける」
「はい、観月様、喜んで」
0025号はにっこりと魅惑的な微笑みを浮かべ、頷いた。
くっそー、0025号め!そうはさせるか!
「お待ち下さい、観月様!どうかもう一度、チャンスをお与え下さい」
私は、観月様に懇願する。
「見苦しくてよ、0023号。あなたはもう、追放の身なのよ。とっとと出ておゆきなさいな」
私は、0025号の事など無視し、観月様にお願いした。
「実は、乾を通して、手塚から打診がありまして、手塚がもう一度、審査をして欲しいと申し出ているのです。前回は自分が審査をする立場だと勘違いしていたからと」
「何?手塚君が?」
観月様が興味を示されたようだ。
「はい、観月様。手塚の新しいデータが取れるのですよ」
「うーん、それは、是非、欲しいですねぇ」
あ、いい感じだわ。
この分だと、追放は取り消しになりそう。
「もう、乾の協力は得ません。どうかやらせて下さい、観月様」
「そうはいかなくってよ、0023号」
「何よー、アンタは黙ってなさいよ」
っとに、この女は。私の邪魔ばっかしやがって。
嫌な女だ。
「あなたは、私たちの規約を忘れているのではなくって?0023号」
「何よ、何か問題でもあるっての?」
「規約第11条 観月様以外の男と2度以上寝るべからず」
「あっ…」
そうだった。
我等スパイは、観月様への愛と忠誠を誓うため、他の男と2度以上寝るのは禁止させている。
しかし、逆を返せば一度は他の男と寝ても良いという事にもなる。
データ収集の為とはいえ、そんな寛大な規約をお作りになった観月様を、私は愛して止まない。
しかし−。
この規約があるかぎり、私は、この手塚からの申し出を受けることは出来ない。
つまり追放決定なのだ。
「0023号、あなたは一度、審査の為に手塚と寝ているわ。だから、このお役目を果たすことはできなくってよ。観月様、このお役目、どうか私に…」
「そうですねぇ、本気の手塚君が相手ですからねぇ、0025号を行かせるのがいいでしょう」
そ、そんなあ…。
私は目の前が真っ暗になった。
「では、そうゆう事で。0023号、あなたは追放よ。さ、観月様、早く寝室に参りましょうよぉ」
0025号は甘えた口調で、その艶やかな肌をちらつかせながら観月様を奥の寝室へと引っ張っていった。
私はがっくりと肩を落とし、自室に戻り、荷物をまとめ、とぼとぼと地下スパイ寮から出て行った。



第二章 ※0025号視点

「来たわね、手塚」
私は手塚にアポを取り、都心のホテルの部屋を借り、手塚を招いていた。
あの0023号のように、乾の力を借りるなど、そんな愚かな真似はしない。
「この前の娘と違うようだが…」
「あぁ、0023号の事ね。彼女は、追放の身となったわ。私は0025号よ。私じゃお気に召さなくって?」
「そんな事はないが…。しかし、その0023号とやらは何故追放された?」
「観月様のご機嫌を取ろうとしていたから、私がそうなるよう、仕向けたのよ。観月様のお気に入りナンバーワンはこの私だけで十分なの」
手塚の硬い表情が一層強張った。
私の言動が気に喰わなかったらしい。
「…お前達は、仲間ではないのか?観月の為に協力し合うのが筋ではないのか?」
「手塚、あなたも青学ナンバーワンと言われているのなら、この気持ちが分かるのではなくって?私はどんなことをしてでもこの座を死守するわ。例え仲間を蹴落としてでもね」
手塚の表情は尚も硬くなり、美しい目を吊り上げ、眼鏡越しに私を睨み付けている。
「…ナンバーワンの座とは、実力を持って示すべきだ」
「もちろん、これからじっくりそれを見せてあげてよ」
私は、長い髪を掻き揚げ、流し目線を手塚に送った。
「服を脱がせて頂けるかしら?それとも私が脱ぐところをご覧になる?」
手塚は答えず、眼鏡を外しテーブルに置き、私の背中に腕を回して体を強く引き寄せた。
「見せてもらおうか、ナンバーワンの実力とやらを」
「望むところよ。さあ、手塚、かかってらっしゃい」


手塚はキャミソール姿の私の肩紐を片方の肩からずらし降ろした。
「成る程、言うだけあって、いい肌をしている…、吸い込まれそうな肌だ」
「当然よ、観月様お気に入りナンバーワンの肌ですもの。気を付けてね手塚、この肌を一度でも知ってしまった男は、皆、私の虜となってよ」
「…そうなった男達はその後どうなる?」
「私と観月様のために散々働かされて、捨てられるわ」
「俺もそうなると?」
「そうね」
手塚はまた目を吊り上げると、私の後ろ髪を軽く下に引き、顔を上に向かせ、私の唇に自分のそれを合わせてきた。
「んんっ…」
悪くないけど、少し乱暴ね。
キスに怒りが込められている。
どうやら私は嫌われたらしい。
私は薄目を開けて手塚を見てみた。
目を閉じた手塚の顔は初めて見る。
−確かに顔はいい、とっても。
手塚は、一旦唇を放し、角度を変え、もう一度唇を重ねてくる。
何度かそうやって角度を変えながらキスを重ねる。
「んっ…」
手塚は、ほんの少し開いた私の唇に、舌を割り込ませ舌を探り当てると、弄り絡ませ、軽く吸った。
「ぁ…っ」
…上手い。
咽喉の奥から喘ぎが出てしまう…。
手塚が舌を蠢かす度に、体の奥が熱くなる。
手塚の舌が、蕩けそうに甘い。
「ぅぁっ…」
ダメ、このままでは私は…。
なのに、腕が、唇が…、手塚から離れようとしない。
自ら手塚の舌に絡ませてしまう。
「っ…、ぅっ…ぁ」
膝がガクガクして、立っていられない。
ダメ−、もう…。
手塚が私の唇を解放した時、完全に脱力した私は床に崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。
いつの間にか、服まで脱がされている。
「はぁ、はぁ…、んっ…」
まだ呼吸が整わない。
−なんて事なの。
こんな事、中学生相手に有り得ない。
キスだけで、イカせてしまうなんて。
とんでもないわ。
この男は、中学生レベルを完全に超えている!
これが、本気を出した手塚の実力だというの?
0023号の報告書には、こんな事は書かれていなかった。
乱暴にベッドに押し倒され、感じているどころでは無くあまりの下手さに呆れ返り、早く止めたくなって0023号が手塚をイカせてやったと報告されていたのに…。
手塚を見上げてみると、彼は無表情で私を見下ろしていた。
そして一言呟いた。
「さあ、油断せず行こう」
手塚は、すたすたとベッドの方に行き、自分の服を脱ぎ捨てた。
「本気で来い!0025号」
気迫の籠もった手塚の声が聞こえたかと思うと、手塚の周りの空気が明るくなっていった。
私は、自分の目を疑った。
「なっ…、か、身体が…、ゴールドに−」
美しく鍛え上げられた手塚の裸体から神々しい光が放たれ、黄金色に光り輝いている。
顔もさることながら、この裸体の輝きと美しさは尋常じゃない。
あまりの手塚の美しさに目が釘付けになってしまう。
「立て」
何の抑揚も無い手塚の声が私に命令する。
私は命ぜられたとおりに立ち上がった。
「ここへ来い」
私はふらふらと手塚の元へと向かった。
逆らいたいのに…。
頭では判っているのに、どうしても体が従順に反応してしまう。
私の意志とは関係なく、体が勝手に手塚の方へと向かってしまう。
あぁ、なんて事なの。
観月様以外の命令に、こうも安々と従ってしまうなんて。
抗えない。どうしても。
体中の細胞が、光り輝く手塚の裸体に向かって吸い寄せられていく。
全ての感覚が手塚に向かって流され、吸収されていく感じ…。
これは、もしや…。
「手塚ゾーン…」
手塚のそばに行きたい、触れたい…、私の体がそう叫ぶ。
手塚ゾーンに陥ってしまった私の体は、完全にコントロールを失ってしまった…。

手塚の元へと辿り着いた私は、私は手塚の首筋にそっと口付けすると、自らベッドに横たわり、手塚を待った。
この美しい男に思い切り抱かれたい…。
体の奥から湧き上がってくる欲望に、もはや逆らう術が無い。
手塚は私を組み敷くと、体中に深い愛撫を的確に落としていった。
「あっ…、はんっ…、ぁっ−」
上手すぎる−。
観月様以外の男に触れられて、こんなに感じてしまうなんて…。
愛撫を落とされた箇所から、電流が走ったような衝撃が全身に走り、触れられる度に、私の体は小刻みに震え、悲鳴のような喘ぎが漏れる。
「あっ…、ぁ…」
手塚に触れられた全ての箇所が、じんとした快楽に溺れ、指先で微かに触れられるだけで、身体は大仰に仰け反ってしまう。
「いい反応だ」
「ゃ…、そんなトコまで…、ぅぁ…」
今までそうでなかった箇所までが、新たに開発されていく…。
足の指のつま先から髪の毛の先端まで、全身が性感帯になってしまったみたいだ。
「ぅぁっ…、んっ…、ぁぁぁ」
すでに何度かイってしまった気がする…。
もはや、冷静に審査をしている余裕など、無い…。
もっと欲しい…。
こんなに感じているのに、体は更に手塚を感じたがっている。
手塚と同化してしまいたい…。
「あぁ、ん…、もう…、お願…い」
「欲しいのか?」
「っ…、え、えぇ…」
男に自ら求めるなど、初めての事だ。
「ならば自分でやってみろ」
私は言われたとおりに、手塚の上になった。
下にある手塚の美しい体に、本能のまま口付けを落とす。
「んっ…」
手塚の口から、僅かな甘い嗚咽が漏れる。
私は持てる技の全てを駆使し、手塚に奉仕した。
「ん…、っ…、んん」
観月様以外の男に奉仕するのは、規約第12条の3項に違反する。
しかしこの男は、いとも簡単に私に禁を犯させてしまった。
なんて男…。
この男は、テクニックで遥に中学生レベルを超えているだけではなく、相手から手塚を求めさせ、本能的に快楽を奉仕させる。
私は審査する立場だというのに、その立場の相手にすら、そうさせてしまう。
「…っ、んん…ぁっ、んん」
もっと奉仕したくなるような手塚の甘い声…。
しかし、私の方がもう、限界だ…。
私は、手塚に跨り、腰を沈めた。
「あぁぁ!」
なんという快感!
腰が勝手に動いていく。
手塚も私の動きに同調し、下から私を突き上げた。
「ぅっ…、ぁっ…、ぁあ」
手塚に体が浸食されていく…。
良過ぎて意識が飛んでしまう…。
もう…、ダメ−。
またイッてしまう…。
「…」
「動け」
動きが止まった私に、手塚が下から命令する。
しかし、すでに何度も達してしまった私は、もう、動けない。
そんな様子に気付いた手塚は、私を下に組み敷いて、再び私の中に潜入し、規則正しい律動を開始した。
「ああっ…、あぁっ…、あっ…、ぁっ…、ぁ…、ぁ−」
何度も達している私の体に、新たな快楽のリズムが、間断なく手塚から与えられる。
激しい手塚の律動が、オーガズムの更に上の高みへと私を導いていく。
あまりの享楽に、もはや意識が保てない。
霞む意識の中で、瞼の奥に何かがうっすらと見えてきた。
何が見えているの…。
暗黒の空間に、青白く輝く光の渦が見えている。
あれは銀河系?
私はトリップしているのかしら?
体が嘘みたいに軽くて、宙に浮いてふわふわとしている。
何故、こんなに体が軽いのかしら…。
まるで、何かの楔から解き放たれたみたい…。
煌めく星々の渦の中心部に見える、あの光の核は手塚かしら…。
自由になった私は、自らの意思によって円を描きながらその核に向かって引き寄せられていく。
気持ちいい…。
あぁ、これが…、手塚ゾーンの真髄なのか。


「おい」
肩を揺らされ、私は、はたと気が付いた。
目を開けると近くに手塚の顔があった。
とても心地良い目覚め…。
「大丈夫か」
「え、えぇ…」
どれくらい気を失っていたのか…。
手塚はすでに服を着ていて、眼鏡もかけている。
シャワーも浴びたのか、微かにシャンプーの香りもする。
「…ならいいが。審査が済んだのなら、俺はもう行くが、いいか?」
「えぇ…、審査結果、知りたい?」
「いや、もう気が済んだ。後は勝手に観月に報告でも何でもすればいい」
「そう…」
手塚はテニスバッグを抱えた。
「もう、会う事も無いだろう、ではな」
手塚は出て行こうとしている。
その姿を見ていると、胸が締め付けられ、苦しくて堪らなくなった。
初めて味わうこの感情…。
これが、切ないという想いなのか…。
私は思わず叫んでいた。
「待って!」
「何だ?」
手塚は振り返った。
「お願い、また…、会って、欲しい」
「何故だ?」
「あなたを、忘れられそうにない、あなたは素晴らしすぎて…」
「だから会えと言うのか?また俺とヤリたいと?」
観月様、ごめんなさい。私はこの男を−。
「…えぇ…、私はあなたを、好きになってしまった…」
情報収集に来て、逆にこちらが心を奪われてしまった。
あぁ、この男…、手塚は…、紛れもなくナンバーワンだ…。
手塚は私をじっと見据えている。
相変わらず、冷たい表情のままで。
「ヤルのは構わんが、どうもお前の事は好きになれそうもない、それでもいいのか?」
「構わない、会ってもらえるのなら。あなたにもう会えないと思うと、胸が張り裂けそうになる。あなたに抱かれてから、いろんな感情が芽生えてきて、とても苦しい…」
「いろんな感情?」
「例えば、0023号の事。彼女には酷い事をしてしまった。私たちの中で一番観月様を想っていたのに、彼女は二度と観月様には会うことは出来ない…、私がそうしてしまったから。彼女の事を考えると、とても辛い…」
「…」
「0023号の事は私の身と引き換えに復帰させてもらえるよう、観月様にお願いする。彼女を復帰させてあげられるのなら、何だってしてあげたい…、今の私に出来る事なら、何でも…今まで感じなかったそんな感情が溢れてくる…」
「…」
少しだけ、手塚の表情が柔らかくなった、…気がした。
「好きになれないという言葉は撤回する、俺に会いたくなったら連絡してみろ」
「!」
手塚、それは、私を…。
「勘違いするな、会うとは言っていない、会うかどうかはその時決める」
「手塚…」
追いかけても届かない、追えばあなたは何の反応もせず、反対側に離れて行くのだろう。
そんなあなたを私は−。
「ではな」
手塚は出て行った。
あぁ、観月様。
もう私は、あなた様に抱かれる事は出来なくなってしまいました…。
私は、この男を、手塚を−。
愛して−しまいました…。



第三章 ※0023号視点

「元気でしたか?0023号」
「はい、観月様」
観月様に呼ばれ、私は再び、観月様にお会いする事が出来た。
久しぶりに拝見する観月様は、相変わらずお美しい。
「実は、0025号があなたを復帰させてやって欲しいと言ってきているのですよ、その為なら自分はどんな罰を受けても構わないからと。どうです?0023号、このお話、乗りますか?」
0025号が?私を?
あの高飛車で鼻持ちならない0025号が、自分を犠牲にしてまで?
いったい何があったのだろう…。
でも、私は、もう−。
「申し訳ありません、観月様、せっかくですが、そのお話、辞退させていただきます」
「んふっ、そう言うと思っていましたよ」
「え?」
「好きな人ができたのですね、0023号」
「観月様…」
「赤澤部長とはうまくやっているようですね、安心しましたよ」
私は頬が赤くなるのを感じて、少し俯いた。
さすが、観月様。全てお見通しのご様子だ。
追放の身となった私は、その後、毎日悲しみに暮れて泣いていた。
そんな私を、影から支えてくれたのが赤澤だった。
赤澤の男気のある優しさに、いつしか私は惹かれていったのだった。
「それはさて置き、今日あなたをここに呼んだのは、お願いがあるからなのですが、引き受けてもらえますか?」
「はい、観月様、何でしょう?」
「これを、0025号に飲ませてあげてくれませんか?」
観月様は錠剤を2粒私に渡した。
「これは?」
「あなた達の洗脳を解く薬です」
「洗脳?薬?」
「あなた達は、僕に洗脳されていたのですよ、僕のデータ収集の為に、手足となって働いてもらう為にね。お陰で、たくさんのデータが集まりました」
「まさか、そんな…」
「おかしいと思いませんでしたか?何故、あなた達は僕以外の人を皆好きにならなかったか」
「そ、それは、観月様が、素敵だから…」
「んふっ、あなたは、本当に一途でしたね、嬉しい限りです。でも、そんなあなたも今は、赤澤に惹かれている」
「観月様、私は…」
「いいのですよ、0023号。あなたの洗脳は、半分解かれてしまったのですよ、そう、あなたを青学に行かせた時から」
「えっ…、あの時に…解かれた…?」
「そうです。そして0025号−。彼女は手塚君に、完膚なきまでに…完全に洗脳を解かれてしまった…、完敗ですよ…」
手塚に、あの有能な0025号が…。
「それで僕も考えを改めることにしたのですよ、もう、こんな事は止めよう、あなた達を解放しようと。それでこの薬を乾君と一緒に作ったのです。これを飲めば洗脳は完全に解かれ、僕との記憶が消えますよ、すでにあなたと0025号以外のメンバーには飲ませています」
観月様が、乾と共に…。
信じられない。あんなに嫌っていらした、乾と協力し合うなんて…。
「青学レギュラーの実力とはすごいものです。僕もすっかり変わってしまいましたよ…」
確かに観月様はお変わりになった。
でも、何かが払拭され、すっきりなされたお優しい表情をなさっている。
「完全に洗脳が解かれているとはいえ、0025号には、まだ、僕との記憶が残っています。すみませんが、あなたは彼女にこの薬を飲ませた後で飲んで、僕との記憶を消して下さいね。それで全て終わりです」
「観月様は、0025号の事を愛しておられたのではないのですか?本当にそれで良いのですか?」
「彼女は今、手塚君を愛している」
「えっ!」
「今僕が彼女にしてあげられる事は、手放す事。彼女には幸せになってもらいたいのです。もちろんあなたも。僕との記憶は邪魔でしょう」
「観月様…」
「素敵な恋をして下さいね、0023号」

翌日、私は0025号の元に行き、薬を飲ませた。
観月様のお言葉を伝えると、彼女は涙を流して薬を飲んだ。

そして今、私は赤澤と共にいる。
素敵な恋をしている、と思う。




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